**ご注意：** 本日の投資家コーナーは一部の読者の方に不愉快な思いをさせる恐れがございます。以下の症状が疑われる読者さんは、この記事を閉じてぜひ一度ご自身の投資アドバイザーにご相談ください。

* 「テスラが完成車メーカー」を耳にすると激怒する
* 10年経ってもテスラは上場ほやほやのITベンチャーと同じ倍率が相応しいと思っている
* そもそもバリュエーションに意味がないと思っている
* イーロン・マスク氏のツイッター暴言が面白いと思っている

さてと、本日のコーナーはみんな大好きなテスラ社！昨夜はサイバートラック生産遅れの報道で株価が大きく下がったが、このコーナーは日々の動きではなくより長期的な解説をするためのコラムなので株価ファンダメンタルズの本質的な議論にお付き合いください。

# これまでオンリーワンだったテスラ社

私も2011年ごろにテスラ・ロードスターのコンセプトを見た瞬間に「かっけええ！」と思った。テスラは10年間をかけて、電気自動車の可能性を見せてくれて昨年にやっと黒字化できた。排出権販売の効果は無論あるが、生産台数が順調に伸び、新たなフェーズに突入しているのも事実。ただし、それが課題でもある。

**すなわち、これまでEVの夢だけで愛されてきたテスラ社はいよいよ業績で評価される時代となった。** ベンチャーあるあるの現象だが、利益がないうちは何とでも言えるが、利益が出始めると一気にリターンが求められる企業としての厳しい現実が迫る。

そしてEVのポテンシャルを見せてくれたテスラに **強敵が次々と挑む。**

カー・アンド・ドライバーの調査で2022年に **少なくても32車種のEVが発売やローンチされる見込み。**

![2022EVs.jpg](https://grid-images-production.cryptact.com/926680f3-fea2-4f7d-8f25-eb0c23d725de)
画像を並べてみるとすごい数だ。

これら全てが無事に発売やローンチされるとは限らないが（現にテスラ自体のサイバートラックが2023年にずれ込む恐れ）、 **2022年は「EV元年」と言ってよいくらい競争が激化しそう。**

# テスラ社に与えられた価値がすでに他社に移行中？！

昨年に何回か話題となったが、大手完成車メーカー全ての時価総額を合わせてもテスラに及ばない状況となっている。私もツイッターで一台当たりといった別の観点から表現してみたが、どこからどうみても結果が一緒：テスラに託されている思いと期待が凄まじいものである。

**でも、本当にテスラ一強の世の中なのか。**

実は2021年1月1日から今日現在まで、 **最もパフォーマンスが良い大手完成車メーカーはテスラではなく、電気ピックアップトラックの F150 Lightning が期待されているフォードである。**

下図で確認して頂ければ、テスラのパフォーマンスは実際、他の大手と変わらないか負けている程度。

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/9c990444-410e-44ac-beee-ef4516bb2c49)
2022年1月1日を100にすると、テスラは約46％上昇しているが、フォードは185％。2021年に初めて米国市場トップのマーケットシェアを獲得したトヨタもテスラを上回るパフォーマンス。

### 各社の株価上昇率（2021年1月1日＝100）

| テスラ | 146 |
| --- | --- |
| フォード | 285 |
| GM | 148 |
| VW | 161 |
| BMW | 137 |
| ダイムラー | 155 |
| トヨタ | 152 |

イーロン・マスク氏の株売却がもちろん影響しているが、テスラは昨年11月につけた高値を更新できておらず、特に過去半年において他社対比、相対的に大きく出遅れている。その出遅れの原因がマスク氏の売却だけであればもちろん再び愉快に羽ばたく可能性があるが、上記のような多数の新車ローンチを機に投資家が他社に目を移しているのであれば大きな転換点になろう。

バリュー投資はここ十数年間の過剰流動性相場の影響で一切機能していない。超低金利時代において企業体質を考える必要がなく、グロースなら何を買ってもよかった、と言っても過言ではない。ただし40年ぶりのインフレを背景に、中央銀行総裁たちの楽な生活が終わろうとしている。金利が上昇すればエクイティリスクプレミアムが縮小し、低金利に依存するグロース銘柄から資金流出が加速するであろう。

それを念頭に置いておきながらどの大手企業をみてもテスラ対比でバーゲンセールされている状態に見える。上の記事で紹介された企業の一覧をまとめてみた。ソニーのコンセプト車も紹介されていたのでリストに含めた。
![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/65017a9e-add0-4ca3-abf5-9d0a39c2a3f4)
2022年度（＝2022年12月期や2023年3月期）ベースのバリュエーションでテスラは引き続き100倍のPER、27倍のPBR、21倍のPSRを超える水準で取引されている。他社はバラツキがあるが、大体PER10倍程度、PBR1倍程度、PSR1倍以下。私が弊社アイデアブックにて紹介しているスバルもトヨタと共同生産するSUVのEV車を今年発売する予定だが、PERが9倍以下でPBRがブック割れ。

テスラファンはテスラがテクノロジー企業だと言い切るが、自動運転技術は決してテスラのみの強みではない。機械学習等のAIや映像技術（ソニー！）を強みとしている企業が多くてテスラと同等やそれを超える技術を展開する企業も現れるであろう。もっと言えば、グローバルで年間7000万台の自動車市場を、百数十万台しか製造できないテスラが支配できるわけがない。

# じゃあお前！テスラをショートしろよ！

嫌です（笑）。

投資判断としてテスラを空売りする必要は一切ない上、テスラの株価の値動きは決して上記のようなファンダメンタルズが主因ではない。長年「ミーム銘柄」として愛されてきたテスラは個人のおもちゃにされるケースが多く、個別オプション市場において圧倒的な存在感を誇る：

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/ee58c9c4-c79f-4255-aa1b-0abfed30ceda)
上図にて米国公的オプション清算会社であるOCCが発表しているデータを元にテスラ個別オプションのマーケットシェアを表示している。過去1年間、テスラオプションは通常4％程度の占有率。つまり、25枚のオプション取引に1枚がテスラ。テスラ株が初めて$1000を超えた日はなんと9.7％であり、約10枚に1枚がテスラのオプションであった。

オプション取引が多い銘柄はマーケットメーカー（証券会社等）のデルタヘッジにより、株価の値動きのモメンタムが増す傾向がある（値動きによるデルタ変動のガンマ効果という）。端的に言うと上がるほど買われる、下がるほど売られる。

そういったメカニズムで遊ばれる銘柄を空売りすると、その銘柄のファンダメンタルズに一切関係のない多くのリスクを取ることになる。

テスラを空売りすることは決してお勧めしないが、EVのポテンシャルを信じその明るい未来にベットしたい方は、上記に紹介したような他に多くの選択肢があり、是非一度ご検討ください。

ご参考までにカー・アンド・ドライバーさんの記事へのリンクは以下：
[https://www.caranddriver.com/news/g29994375/future-electric-cars-trucks/](https://www.caranddriver.com/news/g29994375/future-electric-cars-trucks/)

【2022.01.14】EV市場の格差是正を！テスラの時価総額を再分配せよ！