コロナショックの2020年3月以降、「ビットコインと株の相関性上昇」の記事をFTやウォールストリートジャーナル等の新聞や大手メディアでしばしば見かける。

相関性が高まっているのは事実ではあるが、その原因は何だろうか。そしてそれがビットコインをはじめとした仮想通貨全体に今後どういった影響を及ぼしていくのか。

# 最近、話題となっているビットコインとNASDAQの相関

確か昨日や一昨日にもFTに報道されていたが、足元のビットコインとナスダック（具体的に取引時間外でも取引される先物）の相関性は驚くべき水準まで高まっている。

言葉だけではなかなか伝わらないので以下のチャートをご覧ください。

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/2bb916c9-e4d6-4ef9-8961-1879cc82c502)
上図は2012年以降のBTCUSDとCMEに上場しているNASDAQ100の先物との30日間における相関指数の推移。おさらいのため、相関指数は－1から＋1の指数であり、二つの資産の相関を表す。＋1は同じ期間に全く同じ方向の動きをするのを意味し、－1は同じ期間に正反対の動きをする。

見て頂ければ2012年～2020年の間、＋0.50程度のプラス相関から－0.6～－0.7のマイナス相関を行ったり来たりして、無相関の期間も多かった。ただ、 **2020年3月以降はマイナス相関に転じたことが一度もなく、** それまでなかった＋0.7のプラス相関を超える局面も多数。足元は＋0.73と、なかなか驚異的な水準である。

つまり、ビットコイン価格上下の役7割強の動きはナスダック100で説明がつく。

言い換えれば **ビットコインがNASDAQ100の派生商品となっている。**

**投資の世界で二つの全く異なる資産や指数が0.7の相関性を持つことは、滅多にない。** バブル末期ですべての資産が同時に爆発的に上がる局面や、危機の真っ最中にすべての資産が同時に暴落する時にはありうるが、2年間を及ぶ期間で30日間の相関性が一度もマイナスにならないのはどう考えても珍しい。

なお、程度の違いはあるが、この流れはビットコインに限定されたものではない。2番手のイーサリアムは2020年3月以降、マイナス相関の期間がほぼなく、足元はビットコインに近い＋0.67の水準：

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/ccf669b3-aeb5-46ca-84ec-8e629da8b6da)
この相関性の高さは、先物が米国で上場しているビットコインや、先進国の大手交換所で上場しているイーサリアムだけのものではない。進行中の司法省の訴訟により多くの取引所で上場廃止となり、時価総額がより小さいリップルでも全く同じ傾向がみられ、直近＋0.63と同じく、極めて高水準である。

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/bef8c4bd-924f-4306-986a-847c90340694)
仮想通貨全般が最近のナスダックと同様に、デリバのガンマに日々翻弄される高リスク商品となっているのが明確に伝わってくるが、何がそうさせているのだろうか。

言うまでもなく大手交換所の発展や、ビットコイン先物や先物ETFの上場でアクセスがよくなり投資家の裾野が広がっているのが原因の一つだが、 **個人的に投資家の顔ぶれの変化がより重要だと考えている。**

# 第三世代ビットコイナーの時代

私が思うには「ビットコイナー」に三つの大きな時代がある：

### オリジナルビットコイナー（第一世代）

2009年の黎明期から2014年のマウントゴックスのハッキング・破綻までの5年間に参戦したパイオニアが、この第一世代のメンバー。エンジニア、アナーキスト、リバタリアン等、伝統的な金融システムに反発した人々の集まりでホワイトペーパーに掲げられた「P2Pキャッシュ」のビジョンに導かれた。この時代の参加者はノードやブロック採掘の基礎的な知識を持ち、秘密鍵の管理や活用方法を知り、ブロックチェーン上の送金・入金を駆使した人が多かった。

エンジニアでもある私は当時、ブロックチェーン及び仮想通貨の技術的な根拠を理解できてはいたが、ビットコインの発展を見守っていたのみ。もったいないことをしたね（笑）。

### そこそこアーリー・アドプタービットコイナー（第二世代）

自分はこの世代の人間。2014年から2019年末の間に参入し、P2Pキャッシュにも魅了されつつ、無相関のアセットクラスのポテンシャルを感じた。「デジタルゴールド」の名称が一般的に使われ始めたのがこの時代だろう。伝統的な金融システムへの反発というより、私のような伝統的な金融機関出身の人も多いのでは。技術的な知識をしっかり継承し、スマートコントラクトや「アルトコイン」の誕生を後押しした世代。

### みんなのビットコインのビットコイナー（第三世代）

2020年3月のコロナショックとそれに伴った前代未聞の金融緩和・財政出動はビットコインの「デジタルゴールド」の役割を新たな次元に急速に発展させた。これまでにない規模の「主軸通貨（ドル）崩壊論」が顕在化し、中央集権に縛られないビットコインと分散型仮想通貨に大きな注目が集まった。 **歴史的な金ばらまきのおかげで投資やトレーディングに大きな資金が流れ、株式と同様に仮想通貨もその受け皿となった。**

ただ、インフレヘッジといった、わりと健全な目的のある参加者をはるかに超える規模で価格上昇だけを目標とした機関投資家と個人投資家が新規参入してきた。特に個人投資家は「S2F（ストック・トォ・フロー）で上がるしかない！」、「ビットコインが10万ドルに！」や「ビットコインが100万ドルに！」の煽りに誘導され、 **自分が理解できていないものに手を出した人も多いのではないだろうか。**

そしてこの投資家層はブロックチェーンに興味があるかどうかも怪しいと感じている。ブロックチェーンと技術への関心のある参加者はおそらくDeFiやスマコン活用・開発に流れているが、 **大半は中央集権の先物や交換所に頼りながら投資商品の「ワン・オブ・ゼム」としてビットコイン及び仮想通貨を捉えている。**

なお機関投資家やマクロファンドはビットコインの特長を生かす目的がさほどなく、 **ポートフォリオ運用の一環として仮想通貨を組入れしている影響から上記のような相関性も高まる。**

ご存知の方も多いと思うが、ビットコイン取引の主役が第一世代から第二世代、そして第三世代へと流れた、ブロックチェーンならでの指標がある。

# コイン・デイズで時代の流れが明確に

**昔からブロックチェーンの透明性やデータの豊富さに驚かされる。** 伝統的な金融資産であり得ないような情報が手に入り、誰でも自由にアクセスできる。その中の一つが「コイン・デイズ・デストロイド（CDD）」。ブロック採掘と共に集計されるが、送金されたビットコインの「量」だけではなく「年齢」も表現する。事例を使って説明しましょう。

例えば自分のウォレットに～1年前（365日前）にもらった２ビットコインがあるとしよう。この未使用のビットコイン（＝UTXO）の「年齢」は365日である。よってこのビットコインのコイン・デイズが２ｘ365日＝730日（CD）。この２ビットコインを友人に送金した場合は、730日分のコイン・デイズが「破壊」され、ブロックのCDDに集計される。

その友人が一日後にその２ビットコインをまた違う人に送金した場合は、同じ２ビットコインだがUTXOの未使用期間が1日だけなのでCDDは２ｘ１＝２日となる。

この二つの送金は（手数料を除いて）同じ「量」だが、「年齢の重み」が異なる。

つまり、１ブロック当たりの送金枚数が大体一定だという前提を置くと、コイン・デイズ・デストロイドが高いブロックは、古い（ずっと動かされてない）ビットコインが多く含まれている。

なおCDDが高まる局面は、昔から保有しているビットコイナーが売却を決断したケースが多い。自分のウォレットから取引所やDEXに送金し、売却することでCDDが大きく跳ね上がる。

ビットコインの価格と、CDDを重ねるとその都度の行為が明確に見えてくる：

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/c4736059-caa0-422f-b16a-d522bb58db01)
上図で確認して頂ければ、薄いオレンジ色のCDDは、ビットコインの最高値更新や歴史的な出来事とぴったり合うことがわかる。2011年に初めて$10を超えた時や、2013年に初めて$100、$1000を超えた時。パイオニアたちが価格上昇に合わせて手放した。2014年にマウントゴックス後に参加者に大きく恐怖を覚えさせた際も大きくCDDが上昇した。

その後、価格の低迷と同時にCDDも大きく上がらなかったが、2017年～2018年の$20,000への暴騰で多くの昔からのビットコイナーが新世代にバトンタッチし退場した。「ブロックサイズ紛争」で生まれたビットコイン・キャッシュ（BCH）の誕生前後にも高止まりしている。その後、大きな値動きがあった際に再びCDDが上昇したが、近年のCDDが構造的に低下し続けている。

**2020～2021年の$30,000や$60,000への爆発的な上昇においてはCDDが再び上がってはいるが、何があってもビットコインを売らない「HODL層」は段々マイノリティー化している。**

なお第三世代のビットコイナーの中でそもそもブロックチェーンの送金をしたことがない人も少なくないだろう。永遠に取引所のウォレット内だけでブロックチェーンに関係なくユーザー間で移動されるコインは無論ブロックチェーンに記録されないのでCDDが上がらない。

なお、取引所内でしか動かないビットコインの保有期間も短縮されている。大手取引所のコインベースさんがコインページで開示しているプラットフォーム上の平均保有期間が主要通貨で大きく下がっている：

| 平均保有期間 | 2020年4月 | 2022年1月 |
| ------ | ------: | ------: |
| BTC | 94日 | 89日 |
| ETH | 106日 | 74日 |
| LTC | 130日 | 91日 |

**HODLerがいなくなり、取引所のトレーダーも、機関投資家も、みんな「いつでも、すぐに出れる」状態を保っていることが伝わってくる。**

その一層、近視眼的な姿勢がビットコインに今後どういった影響を及ぼすのだろうか。

# 今後の展望：次の危機は？

コロナショック時も明確だったが、リスク資産と同時に仮想通貨も大きく売られた。 **安全性を求める個人も機関投資家も全員、ビットコインではなく法定通貨に逃げ込んだ。** その後の金融緩和と財政出動で上記の「法定通貨崩壊」シナリオが意識され、資金が大きく仮想通貨に向けられたが、初動が違っていた。

では、今後はどうなるのだろうか。

インフレは確かに40年ぶりの高水準ではあるが、 **「崩壊」するはずだったドル（指数）はすでにコロナ前水準を回復している。** ビットコイン対比の相対的な価値は確かに下がっているが、ハイパーインフレになるような気配が一切ない。FOMCのタカ派シフトを含め、むしろ法定通貨の主軸通貨であるドルの底堅い推移が予想される。

そうすると次の危機の原因がインフレでなければビットコインをはじめとした仮想通貨はどうなるだろう。

残念ながら、NASDAQを買ってもビットコインを買っても結果が一緒だという前提を置けば、ビットコインのビットコインとしての特長はないにひとしい。

**非情に皮肉な現状ではあるが、世界的な金融危機をきっかけに生まれたビットコインは容赦なく次の危機に巻き込まれそうだ。**

【2022.01.29】相関性上昇にビットコイン投資家の様変わりが顕在化。第三世代ビットコイナーとは。