先週は、数多くの歴史的な出来事があった：

* 時価総額から **1日で29兆円相当** が吹っ飛んだメタ（フェイスブック）が **米国史上最大の日次損失記録を更新**
* 時価総額に **1日で22兆円相当** が上乗せされたアマゾンが **米国史上最大の日次益金記録を更新**
* 日本の5年物の国債金利が **2016年1月のマイナス金利導入以降はじめてプラスに転じた**
* ドイツの5年金利も **約5年ぶりにプラスに転じた**
* 原油が6.3％上昇し、 **WTIが6年ぶり$90の大台を突破**

そして金曜日に発表された雇用統計は市場予想を大きく上回り、オミクロン株の感染に足止めされない米国雇用情勢の強さが再確認された。

ここまで各資産のボラティリティが同時に上昇しているのは…

# 何かきな臭い展開の前兆。

と言いたいところだが、S&Pをみると一週間1.55%上昇、2週間連続の上昇。ナスダックは2.4%上昇。日経平均は2.7%のプラス。先週だけで大手S&P型ETFに1.3兆円相当の資金流入。

**株式はこれまで短期的に売られすぎていた、というシンプルな説明はもちろん有効。**

ただ、債券市場を見ていると…

# 見るところによって金融危機手前の混乱が思い浮かぶ。

株式市場は嫌なことを見て見ぬふりをする傾向があるが、債券市場はむしろ潔く認めたくない現実に向き合う素質がある。

さて、具体的に債券市場のどういったところにストレスが現れているのだろうか。

**一先ず過去にも何回か紹介した米国の翌日金利先物の動きをみてみましょう：**

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/80d22059-290f-40b8-83cf-c58293d152d2)
上図をみて頂ければ金曜日の雇用統計発表の影響が鮮明。2022年3月物で、一気に0.44％まで上昇し、今から2か月以内に20年ぶりの0.50%の利上げを織り込みに動いている。実際にそうなれば二十数年ぶりの急速な引き締めとなる。

それと合わせて2022年12月末にて翌日金利先物が1.43%まで上がり、3か月前に考えられなかった6回の0.25％相当の利上げを意味する水準に匹敵。

10年金利が1.9%を超えたのももちろん大きいが、短期金利の値動きを見ていると現在の米国長期金利の上昇はまだ序の口だと考えられる。これについてまた後程コメントする。

次は米国の投資適格社債（＝インベストメント・グレード＝IG）を見てましょう。昨年は何回もハイ・イールド債のバブルについて言及したが、**実は足元のハイ・イールド債の下落以上に、高格付け社債の値動きが気になる：**

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/a888eddb-a9c7-4e2d-bfa6-8c823ee53a52)
ここ半年の米国IG債の値下がりが非常に気になり、市場全体の累計6か月のトータルリターン（評価損益＋利払い）を上図で作ってみた。

自分で作って、こういうのもなんだけど、このチャートを見た瞬間に…

# なにこれっ

と思ってしまった。IG債の過去6か月のトータルリターンは-5.4%となっており、過去20年間においてリーマン前後の金融危機でしか味わってない水準まで低下している。

**高格付け社債の投資家は損することを想定しないし、慣れてない。** 過去20年間の金利ブル相場においてほとんどの大手アセットマネジメント・資産管理会社は、金融危機以外の局面で半年で5%以上やられることを経験していない。大手機関投資家は満期保有する前提でいるだろうが、四半期の実績及び資本規制等は時価（マーク・トォ・マーケット）によるもの。いうまでもなく値下がりはただ単に無視できるわけではない。

**米国のIG社債市場は2021年3Q時点で540兆円相当を超え、** 歴史的な低金利を踏まえ昨年9カ月だけで前年比13％増加。そして歴史的な新規発行に加え、今年に入ってから歴史的な損失が発生している。

なお、無論、米国IG債に限られた現象ではない：

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/059fe88d-ce96-4549-a846-ebca8fb44e07)
先日もツイッターでコメントしたが、それからさらに急速に減少し、全世界規模でマイナス金利がついている国債はなんと…

# たった4日間で40％減少している。

1月31日（月曜日）時点に8.2兆ドル（943兆円相当）あったマイナス金利国債が、金曜日に何と半分近い4.88兆ドル（561挑円相当）に。

冒頭に紹介した日本とドイツの5年国債ももちろんその一部ではあるが、 **お金をタダで借りることに慣れてきた各国の政府にとっては急すぎる展開に違いない。**

そしてマイナス金利で国債を買うほかなかった機関投資家にとっても、ポートフォリオ運営上の大きな試練でもある。

ちなみに上に申し上げた「米国長期金利の上昇はまだ序の口」のコメントだが、そこそこのローテーションが起きているのでは、と思われる。ヨーロッパや日本の国債を売っている投資家は、米国債へのアロケーションをここ数週間上げてきたのでは、と。公式データが発表されればもう少し見えてくるが、米国の長期金利上昇を食い止めているのは他の国からの資金逃避かもしれない。

しかし、債券の本当の「ショック」はまだこれからかもしれない：

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/6b942af6-d8ee-422a-ae62-20d83c2ccece)
株式のボラティリティを表すVIX指数と同様に、米国の2年～30年債の短期オプションのボラティリティを表すMOVE指数がある。上図を見て頂ければ、MOVEとVIXは概ね似たような動きをする。危機の前後に乖離はするが、平時においてそこまで大きなズレはない。

2020年～2021年は、個人投資家のコール買い等でVIXの水準がずっと高止まりしていたのに対し、前代未聞の量的緩和で債券のボラティリティが抑えられ、珍しく長期間における乖離が発生。ただし、6か月前から上記のような要因から債券のボラティリティが右肩上がりで上昇し、現在は2011年ごろの欧州金融危機や2013年のテーパータントラムに近い上昇。

とはいえ、金利の絶対水準はまだ低い。10年金はまだ1.9％であり、7％のインフレがある中で上昇する余地がまだまだあるといえるだろう。2018年ごろに3%台の金利水準に回帰してもおかしくはないが、 **問題はそこにいくスピード感。** もしFEDが狙っているようなソフトランディングが実現されれば、2％を超えてから徐々に上がっていくだろうが、7％強のインフレに追われている連銀はそんな完璧な戦略を立てることができるのだろうか。

グローバルの金融機関は15年前に比べて強固な財務基盤を持ち、そこにリーマン前にあったのと同じような制度的リスクはない。ただし、 **金融危機はそれぞれ異なる発端がある。** 今回は過去40年間になかったインフレのせいで、各国の中央銀行の緩和余地が限られ、 **金融危機を防げる万能薬が使えない状態。**

それだけでもリスク資産を警戒すべき理由。

【2022.02.06】ショックを仄めかす債券相場。20年間の大相場のグレートリセットが迫る。