ウクライナ戦争を機にエネルギー価格は上昇し続けている。戦争の帰着がどうなるかわからないが、どういう結末になろうとも西側諸国は今後ロシアへのエネルギーの依存を低下させていくだろう。その結果として、ロシア産以外のエネルギー需要は増加し価格の高騰、ないし高止まりが続く可能性がある。

この影響は日本も同じであり、ロシアからの天然ガスの輸入を止めるかどうかに関わらず今後ロシア産が増えることはなく、価格の高い調達先から輸入せざるを得ないと想定される。という前提を考えた場合に電力会社の業績に与える影響を考えてみたい。結論から言うと、電力会社によっては基準燃料価格が変更されない限り今後決算は厳しくなる、場合によっては減配リスクもあり得ると考えている。安定配当、有事の際のディフェンシブ銘柄とされていた電力株には痛い要素となり得る。

電力会社は個人向けの小売りから法人契約など様々な商品があるが、大まかに言えば、基本的には燃料価格が上昇すると数か月遅行して電気料金も値上げすることで一定の利益が確保される構造となっている。もちろん値上げまでに遅行するためその間は利益マージンが圧縮されることにはなるが、逆に燃料価格が下落しても値下げもまた遅行するため、長い目で見れば一定の利益率を確保できるような仕組みとなっている。

そのため一見すると燃料費高騰による影響は中期的にはないと考えられ、現在のような地政学リスクが起きる時にはディフェンシブ銘柄としても注目されやすい。しかし、今回のエネルギー高騰はこの想定された燃料費調整制度を超える事態になりつつある。

これは主に個人向けの電気料金の仕組みとなるが、燃料費調整制度における燃料価格というのは実は上限が設けられており、仮に燃料価格価格がその上限を超えたとしてもそれ以上は価格転嫁できない仕組みとなっている。以下、東京電力のHPからの抜粋となるが、東京電力の場合であれば基準燃料価格が44,200円/klであり、これより平均燃料価格が高いと電気代はプラスされ、低いと値下がりするのだが、平均燃料価格の上限は66,300円/klとなっており、実際の平均燃料価格がそれを超えていたとしても、66,300円として計算して電気代は決定される。
![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/cd09affb-3199-45e3-a986-fb85369df4a1)
（東京電力HPより抜粋）

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つまり、実際の燃料費が上限を超えてしまった場合、これまでのように価格転嫁できず利益マージンを悪化させる事態となるわけである。以下、2022年3月の電気代を計算するために採用された、各電力会社の平均燃料価格とその上限金額の表となる。

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|  | 東京電力 | 中部電力 | 関西電力 | 九州電力 | 中国電力 | 東北電力 | 北海道電力　 | 北陸電力 | 四国電力 |
| 燃料費調整上限（円/kl） | 66,300 | 68,900 | 40,700 | 41,100 | 39,000 | 47,100 | 55,800 | 32,900 | 39,000 |
| 平均燃料価格(3月) | 52,100 | 48,800 | **43,600** | 37,200 | **39,400** | 43,500 | 37,200 | **36,600** | 38,000 |

ご覧の通り、すでに関西電力、中国電力、北陸電力と、実際の燃料価格が計算の上限を超えており、これまでのように価格転嫁がもうできない状態となっている。さらにこの3月の燃料価格の計算は2021年10－12月の実績に基づいて計算されている。当然だが2022年、そして足元のエネルギー価格はさらに上昇していることから、今後数ヵ月はさらに平均燃料価格の上昇が予想されるため、ますます上限と実態の逆ザヤは拡大することが予想される。

他の電力会社も今後上限を超える燃料費に見舞われる可能性は高く、そうなると電力会社のマージンはこれまでの水準を維持できなくなる可能性が高いのではないかと考えている。これが、業績悪化、さらには場合によっては減配リスクもあり得ると思う理由である。このような背景から個人的にはショート目線でとらえている。

ただし注意点としては以下2点。1つ目は、価格転嫁の上限があるのはあくまで個人向けの小売り販売である点。二つ目は、個人向けも電力自由化以降の契約は上限設定が基本的にないことである。もっとも二つ目については、自由化以降の契約についても電力会社に請求すれば上限を設けてもらえるという話もあるため、詳細は調べ切れていないが実際には価格転嫁できない可能性がある。

電力会社によって現在の平均燃料価格と上限金額の差がまちまちであり、東京電力や中部電力は比較的余裕がある。上限金額が高いといえるが、これは東京電力は原発が稼働できないため、そもそもの基準燃料価格が他よりも高いことが要因であると思われる。結果的に上限金額設定も高いことからまだ余裕がある。

中部電力は2015年に基準燃料価格の変更を行っていることで、上限が高く設定されている。この基準燃料価格の変更、つまり上限金額を変更できるのか？という部分が１つのポイントなるのだが、実際にはこの制度ができてから10年弱位経過するが中部電力の1例のみとなっている。それも結果的には2期連続で赤字を出した後で変更となっており、制度上そう簡単に上限金額が変更できるわけではなさそうだ。これは電気料金値上げによる国民生活の影響、特に選挙への影響などを懸念して政府も慎重にならざるを得ない背景がある。

なお、当時は中部電力は配当を維持していた。ただ今回はそう簡単ではないと個人的に考えているのは、岸田政権の株主還元や市場への向き合い方からして、電気代の大幅な値上げに繋がりかねない上限金額の変更を行う際に、一定程度のみそぎを企業や株主に求めてくる可能性が高いと考えている。業績の一定期間の悪化だけでなく、電気代値上げの前に減配で株主にも負担を求めるのではないかと思っている。

エネルギー価格が高止まり続ける限り、1－2年単位で電力株は厳しいかもしれない。何よりストーリーがヘッジファンドが好みそうな「踏みあげられるリスクの少ない業態で、中長期でも構造的に業績悪化しそう」であり、界隈でショートとして注目される可能性もある。

また反対側できちんとロングポジションは持っておきたいが、「コストに占めるエネルギー関係の割合は大きいが、エネルギー価格の高騰を上限なく価格転嫁できる企業」、などを持っておけば、仮にエネルギー価格が大きく下がる展開があったとしても大やられする心配は少なそうである。

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