今週はFINRA(米国金融業規制機構)が定期的に公表している 証券口座信用取引残高の歴史的な減少 を見てみたいと思います。
信用買い残高や信用売り残高は、信用取引をされる方なら馴染みがある統計データ。日本は日証金や東証が信用関連データを開示するが、米国はFINRAが1か月に一度メンバー全社の残高を発表。
そして先週発表された1月の数字は 実に歴史的な値であった。
絶対値としては 829,637百万ドル(95.4兆円相当)。
大きい数字…だな。しかし、歴史的な出来事はその大きさではなく、 先月からの減少額である。
一先ずITバブル前からの、長期的な信用取引残高をみてみましょう。
上図をご覧ください。一番右側に先週発表された8300億ドルの値が記載されているが、実は最高値は昨年10月の9360億ドルであった。信用残高推移と合わせてS&P500を出しているが、わかりやすい関係性。信用残は株価が上がっている、もしくは上がりそうな局面で膨らみ、下がり始めると急速に縮小する。投資家が信用のポジションに対し追証を食らい、損失が拡大し、株価下落に拍車がかけられる。
株価全体の水準が長年右肩上がりで推移してきた影響で、残高も構造的に大きくなっている。ただ、現在の8300億ドルの水準は、まだコロナ前のピークであった6690億ドルを超えている。そしてリーマン前の住宅バブルのピークの約2倍。
つまり…
株価が大きく下落しているが、リスクは決して落とされてない状況。
ただ、先週発表された数字はさらなる「リスクオフ」の合図だったかもしれない:
先週の約8300億ドルは、先月の9100億ドルから 役804億ドルの現象であった。
この減少額は統計開始以来、一ヶ月として過去最大の残高縮小となる。
危機やショックでもないのに、ここに来て過去最悪の減少?!
無論、上記にも述べたが株価の絶対水準が高い影響で金額が膨らんではいるが、現在の株価下落が「ただの調整」だと思われている中でこの信用残の動きは深刻な警戒に値する。
コロナショック時でさえ658億ドルの減少で、先月の現象を大きく下回る幅であった。リーマンショック時の最大の減少額は682億ドル。繰り返しだが、「ショック」や「危機」でもないのに、その二つを大きく上回った1月は何だっただろうか。
なおここで気づいた方も多いと思うが、 信用残高の減少が始まるとしばらくつづく。
1番目のチャートを再度見て頂ければ、残高が減少しはじめると 約1年~2年間下がり続ける。 そしてそれと合わせて株価が低迷するケースが多い。
じゃ、今回のコロナバブル崩壊は過去のと同じ結末になるのか。
実はもう一つ重要なヒントがある。
上図はICI(The Investment Company Institute=米国の投資信託・ETF・MMF団体)が開示しているMMF(マネーマーケットファンド)の推移。コロナショック後にも何回か話題となったが、 前代未聞のばらまき(財政出動)による貯蓄増加でMMF残高も2020年5月に過去最高の4.78兆ドルを記録した。
さらなるショックや失業に備え、アメリカ人が預金やMMF商品を大きく増やした。そして現在は約4.55兆ドルに減少しているが、まだ歴史的に高い水準。
ここで2007年の、リーマン前の動きに注目して頂きたい。
何だか、似てないか。
2007年はサブプライムバブルが崩壊しはじめ、関連ヘッジファンドの凍結の解約、大手金融機関の破綻等が相次いだ。そしてリーマンが破綻する2008年10月前からでも MMF残高が大きく膨らんでいた。
つまり、 「未活用の現金がたくさんあるから株価が下がったら買い手が大勢現れる!」という期待は果たしてしてよいものだろうか。
むしろ、今後何かのショックや危機に備えているキャッシュであれば、そう簡単に株式市場やその他リスク資産に流れない可能性が高い。
もっと言うと、ここまで余裕があると、 働くインセンティブが低く維持され、さらなる賃金上昇とインフレ圧力につながるのは容易に想像できる。
今はウクライナ情勢や、来月の利上げを見据えて、「調整」程度のリスクオフが顕在化しているが、 投資家コーナーで紹介してきた債券市場のゆがみや、根強い構造的なインフレ要因等はもっと深刻な「危機の種」を物語っているのでは と最近、常々思う所存でございます。
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